いでや、この世に生まれては、願はしかるべき事こそ多かめれ。
講演タイトルの、あまりの壮大さに目を瞠ったんだけど、随筆の古典二つの解釈をまとめて聴ける機会と思って。期待にたがわず、徒然草の専門家による、枕草子との比較のお話しは、ひきたつ徒然草の美点とか、枕草子の現代性があぶりだされて、とても面白かったです。
以下、受講メモと感想など
■受講メモ
①『徒然草』は日本文学の歴史のちょうど中間、折り返し地点にある
枕草子 11世紀初頭頃の宮廷女房文学
徒然草 14世紀前半頃の出家者の文学
※研究として深め細分化するばかりではなく、徒然草と他の作品や作家との比較等を試みたいけれども、学会などでは嫌がられるらしい。
③兼好は枕草子を愛読
徒然草にもリスペクトが多々見られる。
特に第十九段
七夕祭るこそなまめかしけれ。やうやう夜寒(よさむ)になるほど、雁鳴きてくる頃、萩の下葉色付く程、早稲田刈り干すなど、取り集めたる事は秋のみぞ多かる。また、野分(のわき)の朝(あした)こそ、をかしけれ。言ひ続くれば、皆、源氏物語・枕草子などに言古(ことふ)りにたれど、同じ事、また今更に言はじとにもあらず。思(おぼ)しき事言はぬは、腹膨るる業(わざ)なれば、筆に任せつつ、あぢきなき遊(すさ)びにて、かつ、破り捨つ(やりすつ)べき物なれば、人の見るべきにもあらず。
江戸時代になってようやく注釈本出版 『春曙抄(しゅんしょしょう)』 北村季吟(きぎん)
※芭蕉も井原西鶴も読んだはず
※岩波書店でも昭和27年には春曙抄で出版していたが、やがて能因(清少納言と同世代)の三巻本をもとにした版で出版されるようになった。
※春曙抄 枕草子の書き換えが含まれる注釈本 について、
古典書物は変化する
その書物がどう生まれてきて、時代を経てどう読まれているかに注目する読み方もある。
その書物がどう生まれてきて、時代を経てどう読まれているかに注目する読み方もある。
⑤枕草子の現代性
自由に自分の感想・思索・批評を書く、徒然草は誰でも書ける文章のお手本を示した。
今を生きる充実感は、「もののあわれ」を相対化する
①蝙蝠?
【 枕草子・第三十段 過ぎにし方恋しきもの】
過ぎにし方の、恋しき物、枯(か)れたる葵。雛遊び(ひひなあそび)の調度(てうど)。二藍、葡萄(えび)染などの裂布(さいで)の、押し圧(へ)されて、
草子の中に有りける、見付けたる。又、折から、哀れなりし人の文、雨など降りて、徒然なる日、捜し出(い)でたる。去年(こぞ)の蝙蝠。月の、明かき夜。
草子の中に有りける、見付けたる。又、折から、哀れなりし人の文、雨など降りて、徒然なる日、捜し出(い)でたる。去年(こぞ)の蝙蝠。月の、明かき夜。
去年の蝙蝠:傘ではなく、紙の扇子
②呆れて自室を見渡した
【 枕草子・第七十二段 過ぎにし方恋しきもの】
賤しげなる物。居たる辺(あた)りに調度の多き。硯に、筆の多き。持仏堂に、仏の多き。前栽に、石・草木の多き。家の中に子・孫(うまご)の多き。人に会ひて、言葉の多き。願文(ぐわんもん)に作善(さぜん)多く書き載せたる。多くて見苦しからぬは、文車(ふぐるま)の文。塵塚の塵。
③一重じゃないとだめですか?
【 枕草子・第百三十九段 家に有りたき木】
家に有りたき木は、松・桜。松は、五葉(ごえふ)もよし。花は一重なる、良し。八重桜は、奈良の都にのみ有りけるを、この頃ぞ、世に多く成り侍るなる。吉野の花、左近の桜、皆一重にてこそあれ。八重桜は異様(ことやう)のものなり。いとこちたく、拗けたり。植ゑずともありなん。遅桜、また凄まじ。虫の付きたるも、むつかし。梅は、白き、薄紅梅。一重なるが、疾く咲きたるも、重なりたる紅梅の匂ひめでたきも、皆をかし。遅き梅は、桜に咲き合ひて、覚え劣り、気圧されて、枝に萎み付きたる、心憂う。
④枕草子にも出てくる 「下種」
はやり言葉なので一応・・・。
清少納言の見下し感が、コワい。
【 枕草子・第四木】
異事(ことこと)なる物。法師の言葉。男・女の言葉。下種の言葉には、必ず、文字余り、したり。