Low (David Bowie)
スーパーの西友で電球を探していたらデビッド・ボウイのスペースオデッセイがずっと流れていて、なぜ今この曲を?と首をかしげていたその晩にネットで訃報を知った。
デビッド・ボウイの曲を初めて聴いたのは父のLPレコードの「Low」だった。その頃LPプレーヤーというものは応接間に置かれていて、スピーカーが生活空間の中で少々大きめで、レコードはわざわざ応接間に行って背筋を伸ばして聴くようなものだった。来客向けに父の本を並べた本棚にはわずかにLPレコードもあり、基本はグレン・グールドのバッハばかりでそこに1枚だけデビッド・ボウイが混ざっていたのだから相当愉快な組合せだった。
「Low」はどなたかが父にプレゼントしてくださったのを私は覚えているのだが、詳細を覚えている人はもういない。作品自体は1977年で、いただいたのは1985年頃だ。私も一緒に聴いて、グレゴリオ聖歌みたいだと思った。
この他父がデビッド・ボウイをどれだけ知っていたかといえば、テレビ放映での映画『戦場のメリークリスマス』を一緒に観たことがある。ビートたけしの演技に感心していた。レコードの「Low」も時々聞いてはいたが、ヘビーローテーションで聴いていたお気に入りのグレン・グールドには勝てなかったようだ。
「Low」のおかげでむしろ私や母がデビッド・ボウイに夢中になってしまった。「シリアスムーンライト」ツアーの深夜テレビ放送(1985?)を観るためと言って、母は意を決してビデオデッキを購入してしまった。ユーロスペースで観たレオス・カラックス監督の映画『汚れた血』(1988)の「モダンラブ」の使われ方が素敵で好きな映画の一つになった。2015年にはドキュメンタリー映画『デヴィッド・ボウイ・イズ』を2回、映画館へ観に行った。
ドキュメンタリー映画『デヴィッド・ボウイ・イズ』はイギリスのヴィクトリア&アルバート博物館で開催された素敵な回顧展「デヴィッド・ボウイ・イズ」の紹介を兼ねたデビッド・ボウイの魅力満載の映画で、一時は回顧展を見るだけのためにアムステルダムに行きたい!と思ったほどだった。幸いなことに回顧展(※)は2017年春に日本来るようなので、それまでにデビッドボウイ作品を味わっておきたい。
※ http://www.vam.ac.uk/content/articles/t/touring-exhibition-david-bowie-is/
もしも父があと少し長生きして『デヴィッド・ボウイ・イズ』を映画または回顧展で見たら、ライフワークの一つだった詩人マヤコフスキー(マヤコフスキイ)と比べて、きっとなんやかんや言っただろう言葉を、思い出の中から類推するしかないのがまだ少し寂しい。