【本】もののはずみ(堀江敏幸) 小学館文庫(2015)

 「ほんのちょっとむかしの」製品で、「捨てられはしたけれど破壊はまぬがれた」ものとの出会いを描く短編集。

 それぞれ関連するモノクロ写真と短編がセットになっている形式で、今回特に気に入った短編は、「十九時五十九分の緊張」。オートフリップ・クロック、通称パタパタ時計への底なしの愛が語られていて愉快でたまらない。「待つこと」のいとおしさが沁みてきます。

 本書は、2009年版の角川文庫に書きおろし3編が追加されて復刊したもので、書きおろしの中では「靴屋の分別」が良かったです。手袋みたいに片手を入れて動かすタイプの人形のお話。

 これを書こうとして、角川文庫ではじめて読んだ頃のことを思い出した。熊についての短編「おまけ」に出てくる「青いチェック模様の熊」が、実際に作者・堀江さんの鞄にぶら下がっている様子がなにかの雑誌のバックナンバーに載っている、と教えてもらって、神保町の古本屋を巡ったこと。路面が照り返す熱い日だった。教えてくれたその彼女は居心地の良いカフェを求めて、文字通り日本中を巡る人だった。単純に、本は読めさえすればよくて、カフェでは読書さえできれば、と雑に済ませていた側としては、フランス語が読めて、本の装丁やインテリアにも詳しくて、さすがずっと堀江さんのファンをつづけてきた人は違う、と感心したものだった。復刊を機に、またどこかで会えそうな気がする。